人の手と目で、メッキを極める
黒いアルマイト加工された、リング状のパーツたち。上の写真は、中野ファクトリーに設置された大型設備によって自動処理された後の姿です。切削しただけのアルミニウムは傷つきやすく、外部環境の影響も受けやすい。そこでアルミニウムの耐食性や耐摩耗性を向上させ、着色して装飾することを目的として表面処理されます。それがアルミニウムの陽極酸化(アルマイト)です。アルミニウムを陽極で電解し、酸化させ強靭な皮膜を形成します。
アルマイト処理に対して、ニッケルやクロームなどのメッキ工程は、あえて自動化に踏み切らず手作業で行っています。ハイエンド光学製品の外装で光り輝くクローム仕上げの施された部分は、すべてのパーツが人間の手で処理されているのです。電気メッキを成功させる秘訣は、メッキ対象の表面から油膜を取り除き、メッキの密着性を向上させること。これに対し、真鍮製のパーツは切削後すぐに表面の酸化が始まるので、酸化を防ぐ為にたっぷりとオイルが塗布された状態でメッキの工程に回ってきます。そこで脱脂だけで3つの槽を用意し、徹底して洗浄するのです。この洗浄度合いを調べるのは人間の目、すなわち目視確認が基本です。
完全に洗浄したパーツの金属表面は親水性があり、水槽から持ち上げても水の膜がずっと保たれます。ごく微量でも油などの疎水性の汚染物があると、水の膜が破れやすい。この見極めをするのが人間の役割なのです。伝統工芸の手染め職人のような、厳格な視線と熟練の手さばきで洗浄作業が進んでいきます。もちろん自動化しても表面の硬度や耐食性などの機能的な要求は満たせるでしょう。ただし、ごく些細なトーンのムラや、袋穴の側面のメッキのやせを許さないのであれば、手作業に軍配が上がります。非の打ち所のない美しい輝きのメッキ仕上げ。それも私たちが考えるハイエンド光学製品の品質のひとつなのです。