絞り羽根の設計と組み込みについて
カメラを操作する上で、理解しておくべき最も大切な要素としてシャッター速度と絞り値があります。レンズを通った光をどれだけの時間フィルムや撮像素子へ届けるのかを決めるのがシャッターであり、光がレンズに入ってくる入り口の大きさを変えるのが絞りです。光の必要量に応じて、目の瞳孔と同じように孔を大きくしたり小さくしたりするレンズの絞り。絞りリングを操作すると孔の大きさが変化するのは、上の写真のような薄い金属板がリング状に組み合わされてレンズの内側にセットされ、一枚一枚が均整のとれた動きをすることによって成り立っているのです。
レンジファインダー機など手動絞りのレンズではブーメラン型の絞り羽根、一眼レフなど自動絞りのレンズでは鎌の刃型の絞り羽根が用いられます。ひとつ絞るごとに光の量が厳密に半分になることはもちろん、私たちが絞り羽根の設計で心がけていることは、絞り羽根が形づくる孔の美しさです。レンズのボケ味は、レンズの持つ特性に加えて絞り羽根の枚数や形状が大きな影響を及ぼします。絞り羽根の枚数が多く、孔の形が多角形ではなく円形に近いほど、丸くやわらかな美しいボケが生まれます。複数の絞り羽根を使って、いかにして丸い孔を生み出すのか。設計のこだわりは、尽きることがありません。
実のところ設計のこだわりは、製造の現場に負担をかけている部分もあります。絞り羽根の枚数が5枚や6枚であるならば、組み込みの作業効率が格段とアップするからです。ごく薄い絞り羽根の突起部をピンセットで保持し、レンズ鏡筒内部へリング状に組み込んでいくのは集中力を要する作業です。特に最後の1枚を両隣の絞り羽根の間をくぐらせるように差し込む場面で手先が乱れれば、全ての絞り羽根がバラバラと崩れ落ちてしまいます。私たちがこうしてあえて熟練の手作業に頼っているのは、多少の手間がかかってもハイエンド光学製品に相応しい甘美なボケ味を、お客様に味わって頂きたいからに他なりません。