数値と感覚による品質管理
組立てが完了し、製品として仕上がったハイエンド交換レンズは1本1本が最終チェックの段階に入ります。上の写真は、目視によりレンズ内部に微細なレベルでの異物混入の有無を確認している様子です。レンズの上にあるのは、ホコリやキズと照らし合わせてスケールを見る特殊な道具です。規定のサイズより大きな異物混入などがあれば、良品として最終チェックをパスすることはできません。この基準値を大幅に緩和したとしても写真撮影の結果に影響は及ばないのですが、それでも私たちは美観も性能のひとつと捉え、あえてハードルを高く設定しているのです。それは極上の道具だけが持つ、際立った美しさや操作の感触を知り尽くしたお客様が求めている品質だからです。
優れた製品を生み出すための品質管理には、ふたつの重要なファクターがあります。まずは、どこに問題が存在するかを発見する能力。そして、それを良品とするか不良品とするかを判断する能力です。これらを掛け合わせた結果として厳密な検査が成立します。そこで検品の担当者によって判断基準がブレないように、定量化された数値を明確にしています。たとえばフォーカスリングを回す場合に、どの程度のトルクを適正値とするかを定め、その数値を示せる計測器を用意しています。とはいえ規定値をクリアしたとしても、良品とされない場合もあります。なぜなら、極めて優れた製品を生み出すべく設けられた、さらに高次元な人の手による操作感触の試験があるからです。
マニュアルフォーカスによる滑らかなピント調整のフィーリングは、ヘリコイドの噛み合わせ精度や直進キー(011参照)の組み付け、グリスの塗布具合などにより変化します。理想的な感触から外れている状態を示すのに私たちが使う言葉は『重すぎる』『軽すぎる』にはじまり『ムラ』『ザラ』『ガタ』『ツマリ』など数多くあります。レンズを操作する状況を想定して、姿勢差により操作フィーリングに違いがないかもチェックします。水平に構えたときにはスムーズであったとしても、真上や真下に向けた場合に微妙に『ムラ』を感じたとしたら良品として認められません。お客様が手で感じること。それを私たち自身も人の手で操作し、感じ取ることで、ハイエンド製品として認められる品質かどうかを判断しているのです。