APO-LANTHARの誕生の歴史
APO-LANTHARの歴史は、1900年ハンス・ハルティングにより発明された HELIARを起点とします。HELIARは 3群5枚と少ないレンズ構成でありながら、優れた描写力を持ったレンズです。HELIARが現代に通用する光学タイプであることの事例として、現在発売中のHELIAR Vintage Line 50mm F3.5 VMに採用され、優れた描写力を発揮したことが挙げられます。また、HELIARレンズは昭和天皇の御真影を撮影したという記録もあり、昭和時代には営業写真館においてその豊麗な描写力から家宝として扱われるほど絶大な支持を得ていたと伝えられています。
HELIAR誕生から約半世紀が経過した1951年。アルブレヒト・ヴィルヘルム・トロニエが、新種ガラスの採用によりHELIARと同じ3群5枚構成でHELIARを超える性能を持つレンズを開発しました。それがAPO-LANTHARです。語源の“APO”とは、アポクロマート設計されたレンズであることを示します。光の3原色であるRGBそれぞれ異なる波長(振動数)に起因する軸上色収差を限りなくゼロに近づけることにより、高次元の色再現度が得られることを特長とします。1935年に誕生したカラーフィルムの普及に伴い、白黒フィルムよりも忠実に光を捉える必要性が生じてきたこともAPO-LANTHARが開発された理由の一つです。
APO-LANTHARが搭載された初めてのカメラは、戦後のフォクトレンダーを代表する距離計連動6×9判ロールフィルムカメラ、BESSA II でした。このカメラにはAPO-LANTHAR 4.5/100、COLOR-HELIAR 3.5/105およびCOLOR-SKOPAR 3.5/105という3種のレンズバリエーションが用意されていました。APO-LANTHAR 4.5/100の鏡筒先端部にはアポクロマート設計を示すRGBのラインがあり、特別なレンズとして差別化がなされています。その希少性と性能の高さからAPO-LANTHARが搭載されたBESSAIIはカメラコレクター垂涎の的であり、現在でも中古市場において高額で取引される伝説のカメラです。
MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Asphericalの鏡筒先端部には、BESSAIIを始めとするAPO-LANTHARに施されていた装飾へのオマージュとして、RGBの差し色を配しています。