COSINA

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アニール 光学ガラスの修養過程(1)

  • コシナこだわりの理由

 上の写真は、コシナ小布施ファクトリーに数多く設置された電気炉の様子です。これらはアニール炉と呼ばれる装置群です。アニールとは、焼き鈍し(英:anneal)のこと。高温のプレス加工によって形づくられたレンズ原形は、そのまま研削/研磨の工程に進むことはありません。その前にアニール炉の中でふたたび加熱され、それからゆっくりと温度を下げられていくのです。光学ガラスはプレスの急速な冷却などにより、その内部で分子の配列が乱れているとレンズとして充分な機能を果たせません。そこで、厳密な熱処理によって分子の配列を整えるアニール処理を経ることで、光学ガラスの性能を均質化していくのです。

扉にも熱源を装備するアニール炉

 光学ガラスの種類により異なる屈折率は、レンズ設計にとって基本の中の基本です。この数値が不安定であれば、光学製品の性能を根幹から脅かすことになってしまいます。プレス成形後のレンズ原形の屈折率にはバラツキがあります。見た目は立派なレンズになれそうでも、プレスされただけのレンズ原形には、まだまだ精神修養の必要があるのです。そこでアニール炉の中で、求められるレンズ特性へ極限まで近づく修行に入ります。光学ガラスの屈折率は、アニールの工程によって微妙にコントロールすることが可能です。すなわち、光学ガラスの資質を生かすも殺すもアニール次第なのです。

電気炉のコントロールパネル

 では、どのようにして規定の屈折率に合わせていくか? 適切なアニールの方法は、光学ガラス素材の種類によって異なります。光学ガラスを熱していくと、ある温度で分子が運動しやすい状態になります。これを転移点と呼びますが、硝種により転移点はおよそ摂氏580度から700度と大きく異なります。厳密には硝種だけでなく、製造用のポットナンバーによっても特性が異なるのです。割断し、秤量し、バレル研磨し、高温でプレスした光学ガラスの種類およびロットごとに、きめ細やかに対応するアニール処理をしていくこと。この工程なしに、ハイエンド光学デバイスを生産することは不可能なのです。