エピローグ ものづくりの哲学
私たちコシナがものづくりに励んでいる場所は、長野県にあります。この土地の豊富な水と澄んだ空気は、精密産業に適していると小学校の教科書で読んだ記憶のある方も多いのではないでしょうか。信州の精密産業は、第2次世界戦争中に東京や京浜工業地帯で操業していた時計工場や光学工場などが戦火を逃れ疎開してきたことに端を発します。終戦後も数多くの精密・ハイテク機器メーカーが長野県に根付き、メイド・イン・ジャパンを代表する製品を世界に向けて送り出す地域として発展を遂げました。
そのような時代の鼓動に呼応して、コシナは1960年代の初頭に創業しました。レンズ加工の工場からスタートして間もなく、鏡枠の製造や組み立てにも着手。カメラの製造にも取り組み、1968年にはガラスの熔解、レンズ製造、カメラ組み立てまでを一貫して手がけるメーカーとなりました。それから流れた年月とともに研鑽を重ね、2004年にはその高い技術力を認められ、ドイツ・カールツァイス社とのパートナーシップを締結。共同開発を通じて、ハイエンド光学機器を長野県の工場において製造しています。かつて師と仰ぎ追いかけてきたドイツの光学メーカーと、共に歩むまで成長したのです。
かつての養蚕にしても、時計やカメラにしても、長野県で発展を遂げた産業は特定の技術をベースにしています。それに加えて最終的には“人間の手に頼る”タイプの産業であることが大きな特徴でもあります。この最終的な部分が、信州人の職人的な気質とマッチしているのでしょう。何ごとにも手を抜かず、突き詰める。美しくも厳しい自然によって培われた、こだわりの姿勢。信州人は完璧さを求め、精度を上げていく仕事に長けているようです。
ただし、私たちの取り柄である“こだわり”が目的になってしまっては本末転倒であると考えています。古い技術や手法に固執するのではなく、ただ新しいというだけで飛びつくこともせず、本質的に求められている品質とは何かを熟慮し、それを作り上げるのに必要なプロセスを選択する。その結果として、“こだわり”と呼ばれるような仕事をしていく。そうすることで生み出されたハイエンド光学機器で、お客様の心に触れ、心を満たしていく。お客様の100%の満足のために。それこそがコシナの取り組む「こだわりの理由」なのです。
コシナ こだわりの理由は、今回が最終回です。長らくのご愛読ありがとうございました。