カメラとレンズ、故郷に還る
コシナ信州中野ファクトリーの一角に、製造部門とは違う時間の流れる場所があります。そこでは既に組み立てられている完成品を分解し、ふたたび組み戻す作業が行われているのです。上の写真は、お客様からの要望を受け、到着したレンジファインダー式カメラを修理している様子です。分解しながら考え、不調の原因を知り、対処のアイデアを出し、適切な処置をして組み戻していきます。生産のプロセスでは、順序よく部品を組み付けていくことで一定の時間で1台のカメラや1本のレンズが完成しますが、修理の場合には故障の原因を見抜き、課題を解決しなければなりません。お客様の数だけさまざまな使用状況があることから、メンテナンスすべきカメラやレンズの状態も千差万別です。
カメラやレンズを修理するには、それを組み立てるよりも多くの時間とアイデアを要します。実際に修理部門での作業に携わっているのは、組み立て経験の豊富な社員です。どのようにして組まれたカメラやレンズであるかを熟知し、数多くのメンテナンスを通じて得た知識から使用状況を推測し、それに起因する動作不良などの問題点に気づき、元どおりの性能へと復活させていくのです。依頼表に不調の訴えがあったポイントだけでなく、機能に関わるすべてをチェックしながらメンテナンスは進行していきます。すなわち、カメラやレンズを“治す”という行為をしながら、もういちど“作る”ことをくり返しているのです。
お客様からのお手紙やメールで「修理に出したカメラが新品のようになって戻ってきた」という感謝のことばを頂戴すると、私たちは誇らしい気持ちになります。コシナの本拠地で生まれたハイエンド光学製品であるカメラやレンズが世界のどこかに到着し、私たちの見たことのない光景を目の当たりにし、お客様とともに行動し、数多くの写真を撮影し、そして身体を休めるために故郷へと還ってきました。おかえりなさい、メイド・イン・信州中野のカメラとレンズたち。この場所でコンディションを回復させ、ふたたびの出発に万全を期すべく私たちはメンテナンスに全力を注ぎます。これから先も、コシナの作った製品が末永くお客様の愛する機材であり続けるために。