レンズの中心を見極める“心取り”
表面を設計値どおりの曲率半径に研磨されたレンズは、レンズ枠に組み込まれることで製品になります。とはいえ表面が研磨されただけのレンズの外径は、所定の寸法よりも大きく作られていることから、そのままではレンズ枠に組み込むことができません。上の写真は、研磨されたレンズを“心取り”した状態を撮影したものです。レンズ枠の寸法にあわせてレンズの外径を研削するにあたり、最も注意すべきポイントはレンズの中心を見極めることです。レンズの設計図に描かれた一本の線。それは光軸と呼ばれる目で見ることのできない基準線ですが、これに対してレンズ両面の曲率中心がズレた状態(=偏心)になると光学的性能を損なってしまうからです。何枚ものレンズを光学系として組み込んでいく際に、1枚1枚のレンズの中心軸は光軸と完全に一致していることが求められます。
レンズの中心を探り当てる“心出し”の作業には何種類かありますが、機械的な方法としてはベルクランプを用いています。同軸で回転するふたつのレンズホルダー(固定軸とクランプ軸)によってレンズを両側からはさみ、レンズの両面にホルダーを完全に密着させていくことでレンズは回転しながら滑動し、ホルダーが接触している部分のレンズの厚さは全周にわたって等しくなります。それと同時にレンズの光軸はホルダーの回転軸と一致するのです。こうして機械的運動の中心軸を利用して、目に見えない光学的中心を決定します。
レンズがベルクランプによって“心出し”された状態で、レンズ枠の寸法に合致するように外周を研削する工程が“心取り”です。レンズの外周は、ダイヤモンドホイールと呼ばれるグラインダーによって研削されていきます。ここで削る寸法は、レンズ枠の内寸と完全に一致させず、ごく僅か多めに切削します。その理由は、この切削面での不要な光の反射を防ぐべく塗布される黒い顔料の厚さを勘案しているからです。“心取り”されたレンズの端面の形状は、単純な平面だけではなく、段が付いていたりV字カットが施されている場合もあります。そして、それぞれの端面形状には固有の“こだわり”が込められているのです。