新種ガラスは一日にして成らず
上の写真は、新種の光学ガラスを開発すべく白金の坩堝(るつぼ)で熔解させた素材を実験用のサンプル型へと流し込んでいる様子です。光学ガラスとして分類される硝材は屈折率や色分散性などの光学的特性、表面の耐酸性や耐候性などの化学的特性、加工する際に重要となる熱的特性や機械的特性など数多くの性質により分類されており、その種類は200以上にのぼります。それだけあれば充分ではないのかと思われるかもしれませんが、コシナでは新種ガラスを生み出す実験の手を緩めることはありません。より良き光学デバイスの原点として、製品化を視野に入れた新しい硝材の研究と開発に取り組んでいます。
ガラスの原料は二酸化ケイ素(シリカ)を主材として、さまざまな物質を混ぜ合わせたものです。過去には鉛やカドミウム、ヒ素など環境負荷が高いとされる物質も性能アップのために使われていましたが、現在では酸化チタンなどの代替物質が活用されたエコガラスであることが求められています。それらに加えランタン/イットリウム/ガドリニウム/タンタルなど、レアメタルやレアアースと呼ばれる物質も特定の性質を導きだすのに有効な素材として選択されます。これらをどのように配合するか? そしてどのようなプロセスで熔解していくか? さまざまなアプローチで、私たちの挑戦はくり返されています。
新たな性質を持った光学ガラスを生み出すことは、多くの困難を伴います。均質で透明度の極めて高い状態が当たり前のように捉えられがちですが、光学ガラスを構成する元素の状態や分子のふるまいにより、一般的なガラスのイメージからかけ離れた状態のものになってしまうこともあります。原料に微量な不純物が残っていると、緑や黒色に変化してしまったり、酸化チタンの成分は黄変の原因となることもあります。周期表の縦軸をベースにして構成する物質を入れ変えてみるなど、論理的整合性を持った見立てによりトライしてみても失敗することは日常茶飯事です。それでも、誰もやっていない領域へと踏み込んでいく。そんな姿勢がなければ新たな発見は生まれないのだと、私たちコシナは考えているのです。