硝材の吟味と検査について
コシナでは、レンズの素材となる光学ガラスの“バー材”に強い光を当て、その断面を目視することで微細な気泡や異物がないか、全数を検品しています。そもそも光学ガラスに含まれる気泡は非常に少ないのですが、硝材の製造工程で気泡が生じるのを100%防ぐことは困難です。実際に20世紀半ば頃までに生産されたレンズには、よく製品を観察してみると気泡が見つけられることがあります。撮影結果に大きな影響を与えない範囲で気泡の存在は許されてきたのですが、私たちは徹底した画質の追及と美観という見地から気泡を残らず除去すべく取り組んでいるのです。肉眼による検査で発見できる気泡や異物は0.03ミリ程度の大きさまで。それ以下のサイズに関しては顕微鏡を使うこともあります。
また、レンズの性能に密接な関わりを持つ屈折率と、アッベ数という指標で表される各波長による分散(=色のにじみ)に関する測定も厳密に行われています。硝種により屈折率とアッベ数の標準値は定められていますが、公差の範囲内でばらつきがあります。屈折率はレンズの原形を生み出すまでの工程で微妙なコントロールが可能ですが、アッベ数を修正することは困難です。コシナが生産するハイエンドの交換レンズでは、アッベ数において国際標準規格で指定された公差よりも厳しい基準を設けています。いわば“生まれのよい素材”を厳選するという取り組みにより、製品の画像品質を根本から向上させているのです。
さらに、脈理(みゃくり)と呼ばれる現象も厳しくチェックしていきます。これは光学ガラスの内部において、屈折率が微妙に変動している状態のことです。透過光によるシャドウグラフ法という検査により、ごく僅かな屈折率のムラが生じていないかどうかを確認します。豊富な経験を積んだベテランから、脈理(みゃくり)の読影(どくえい)術は受け継がれており、それが発見された部位は摘出されてレンズの原料になることはありません。このようにしてレンズづくりのスタートラインである素材の選定から、ハイエンドと呼ぶにふさわしい品質への責務が果たされているのです。